(07) 周囲のことにも常に関心を

コラム「女性管理職が語る」

(2019年 月 日経産業新聞コラム欄「女性管理職が語る」への寄稿)

ある女性メンバーとの懇談会で「20代に向けて、ご自身を振り返った際、これをやっておけばよかったなどのアドバイスはありますか」という質問をいただきました。確かに、過ぎてみて分かることが多くあります。

その答えは「自分で自分の守備範囲を決めず、色々なことに関心を持ってほしい」でしょうか。20代の私は「向かない」「難しそう」と、やらない理由をいくつも持っていました。経験がないうえに視野も狭く、判断する情報を持っていなかったからだと、今になればよくわかります。

20代で多くの異動を経験したことは幸運でした。自ら手を挙げたことはなく、異動の度に不安でしたが、多くの方の支援を受け、何とか進んで来られました。人との出会いが視野を広げ、新たな物事に興昧を持つきっかけになり、それが業務の幅を広げ、成長につながったと考えています。

わからないことが多いのも当然なので、出会いや機会があれば、まずはやってみること。 失敗することもありますが、それが気付きとなり、勉強することにつながり、次の挑戦ができるのです。

「門前の小僧習わぬ経を読む」ことの大切さを説かれたことがあります。常に見聞きしていれば、知らないうちに学ぶことのたとえです。「自分の仕事を覚えることは当たり前。周囲で何が起きているのか、日ごろから関心を持つこと。それがいずれ何かの役に立つから」ということでした。

「門前の小僧」を意識していると、自然とチームの中での自分の役割への理解が深まります。仕事を通じて、仕事以外のことでも上司や先輩、お客様の話を聞き、興味を持ったことは数しれず、まさに「門前の小僧」だったと感じます。

「新聞は毎朝読むもの」「もっとよく考えること」「相手の立場になっているか」など多くの指導を受ける度に、「また言われてしまった」と思いつつ、気が付けば身についていました。

そして、先輩、上司となった私たちには、門前という環境、「繰り返し見聞きできる環境」「人が育つ環境」をつくる役割があります。皆がワイワイと相談し合い、時に落ち込んでいる人がいれば、誰かが声をかけ、成果は共に喜び仕事ができるのも大切な環境の一つではないでしょうか。

職場メンバーの個人的な趣味や考え方に触れることも、視野を広げる契機になります。私は池波正太郎の小説やエッセーが好きですが、当時、上司や先輩がその話をしていて、どういう内容なのかと手にしたことがきっかけです。

「どんな本を読めばよいですか」と聞かれることも多いのですが、先輩や上司は遠慮することなく「これは面白い」と話題にし、後輩や部下の皆さんは「自分には合わない」と決めつけずに薦められた本に関心を持ってみるとよいと思います。

20代の皆さんも、先輩や上司も、双方が遠慮せず、相手を知ること、コミュニケーションをとることに積極的であってほしいと思います。その中から、少しずつチャレンジの輪ができ、それぞれの思いをつなげていくことが、人が育つ職場、チーム力、企業が新たなものを生み出す力になると考えています。