(11) 聞かないでオーラ出てますよ

コラム「女性管理職が語る」

(2020年4月 日経産業新聞コラム欄「女性管理職が語る」への寄稿)

新入社員を迎える季節です。以前、新人歓迎会で「入社時のことを昨日のように思い出します」と話したところ、「記憶力が良いですね」と言われたことがあります。新人の頃は慣れないことを多く経験するので忘れられないという意昧だったのですが、 未経験の人には記憶力の話になってしまうのでしょうか。

上司・先輩として伝えたいことが山ほどありますが、年代が離れていることで伝わり方にもギャップがあります。今回はこの「伝え方」「伝わり方」について、私なりに思うことを紹介します。

1つ目は業務の指示についてです。伝えたつもりだが、新人には十分に伝わっていなかったというのはよくあることです。

新人は覚えることが多く、指示を聞いている時は理解できたと思ったものの、いざ始めるとどんな意味だったのか、何か手を動かすのかわからなくなったり、忙しそうな先輩に声をかけられないまま時間がたったりすることがよくあります。

先輩としては「わからないことは聞いてね」とも言っておいたのにどうしてという思いにかられます。しかし新人からすると、そう言われても、先輩たちが仕事に集中する姿は「今、忙しいから聞かないで」と言われているように感じるものです。私たちはそれを「聞かないでオーラ」と名付けていました。

先輩たちに悪気はありませんが、コミュニケーションを取りながら仕事を進めていく経験の差などが、「伝え方」「伝わり方」のギャップとなることを認識する必要があると思います。

先輩同士のコミュニケーションも大事です。周囲が気づいたら「聞かないでオーラが出ていますよ」と声をかけてあげましょう。一方、新人の皆さんは「聞く勇気も必要、聞くことも仕事」と理解してください。

2つ目は共通用語についてです。私が新人の頃はよくことわざが例に出されました。落ち込んでいるメンバーに上司・先輩が「石の上にも三年だ、がんばれ」「立っている者は親でも使え。立っているから手伝うよ」「門前の小僧だから大丈夫」と声を掛けると、それが共通用語となり、多くを語らずとも明るくコミュニケーションが取れたように思います。

先ほどご紹介した『聞かないでオーラ』はことわざではありませんが、共通用語となればその一言でハッと気づくことができます。わかりやすいキーワードを皆で共有することは、伝え方の有効な方法ではないかと思います。最近では「ワンチーム」「ワン・フォー・オール、オール・フォー・ワン」でしょうか。

3つ目は、相手を理解するダイバーシティ(多様性)の観点です。経験や世代、性別だけでなく、人それぞれの視点や価値観によって伝わり方にはギャップが出てきます。あうんの呼吸で伝わっていた企業内のネットワークも大きく変化しているようです。新入社員に対しても丁寧なコミュニケーションの場作りが必要だと感じています。

デジタル時代こそ「伝える」ことは人の力となります。この季節、皆で改めて「伝える」「伝わっている」ことを大切にしたいと思います。私の思いはうまく皆さんに伝わったでしょうか?