(19) 「結」が生む新たな価値

コラム「女性管理職が語る」

(2021年12月 日経産業新聞コラム欄「女性管理職が語る」への寄稿)

早くも年末となり「今年を漢字一文字で表すと?」という質問に「結」を選びました。この字には「つなげる」という意味に加え、「結びつけて1つのものにする」という強さを感じさせます。

選んだ理由は3つあります。1つ目は、新型コロナウイルス禍で人との結びつきの大切さを改めて感じた年だったからです。2つ目は、デジタル活用推進と人との接点を一層大切にする思いを結ぶことで、新たな働き方が生まれる「人の力とデジタルのベストミックス」を実感したためです。

そして3つ目は、3月までの四国勤務3年間で八十八カ所霊場を巡り、高野山奥の院(和歌山県高野町)にお礼参りをして結願できたためです。当初は巡りきれると思っていませんでしたが、日帰りツアーで先達さんから基本を教わり、自分のペースで行けるところから巡っていきました。

札所はもちろん、その地域、景色、名物などにも触れ、毎回感動のひとときでした。還暦の節目で結願できたことは私にとって記憶に残る貴重な経験となりました。

さて、この「結」はさらに様々なことに生かせるのではと思います。新たな知と知の組み合わせはイノベーションの本質とも言われ、遠いもの同士ほど面白い発見があるそうです。今年話題になった渋沢栄一の「論語と算盤(そろばん)」も対極にあるものの長所を巧みに組み合わせて両立させるという考え方です。

女性はまだ仕事と育児の両立に悩む人も多く、「男性のように自分の時間を全て仕事に使う働き方はできない」という声も聞こえます。こうした「男働き」は一つの方法として敬意は払うべきですが、今の時代は違うやり方が求められます。

この際、仕事と育児を分けず、結びつけてみるのはどうでしょうか。例えば、地域社会や教育、子供の感覚といった、子育てを通じて得る視点を本気で仕事と組み合わせると、ダイナミックな発想が生まれそうです。

時間の創出という観点ででは、今まで以上に仕事をシンプルにすることもいいでしょう。なりふり構わず多くの知恵を借り、他部門も巻き込み、重複業務や工程を減らすプロセスの見直しにも踏み込めば、新たな仕事のやり方や価値提供の方法も見つかると思います。

対極にあるものだからこそ結び付けてみるという考え方に挑戦してみるのです。トライ&エラーを束ねることは時にしんどいと感じるかもしれませんが、それが仕事の面白さでもあり、また自身の子育てや後輩たちの仕事のやり方改革にも貢献できるのだ、という思いが強く後押ししてくれることにも期待します。

仕事で目指す成果には妥協しなくとも、そこへのたどり着き方は色々な道筋があるはずです。そして、過ぎてみれば人生の至る所にあるピンチはチャンスだったと思えるものです。

日々の仕事と自分や他者の経験や思いを重ね、それらを結びつけていくことは変革の一歩です。でも、本当に大切なことはしっかりと守りながら、新しいものを創っていくには勇気も必要ですね。今年の「結」に変えて、来年の漢字は「勇」と言えるよう、私も若いメンバーと共に挑戦したいと思っています。