(10) 終わらないと始まらない

コラム「女性管理職が語る」

(2020年1月 日経産業新聞コラム欄「女性管理職が語る」への寄稿)

新しい年がスタートしました。子(ね)年は十二支の一番ということもあり、新しいことが始まる変化の年と言われています。また「子」という字は、終わるという意味の「了」と、始まるという意味の「一」に分解できます。つまり何かを終え新たなことが始まることを示しているそうです。

なるほどと思うと同時に、変革にはこれまでのやり方をやめることも必要なのだと感じました。現場を改革するときは新たなやり方が導入されますが、 過去のやり方を「終える」意識を強く持たないと、変革自体がうまくいきません。

新旧のやり方が並走することも多く、業務が増えたと感じたり、人によって優先順位が違ったりと各人の思いが錯綜 (さくそう)し、改革がスムーズにいかないこともあります。それを避けるには思い切って「終える」ことが必要です。新しいことを始めるより、やめる方が意外と難しいということでもあります。

何かをやめると判断するときの軸は、その仕事の目的であり、企業理念になると思います。この軸を皆で共有できれば、組織として変革が進んでいくのでしょう。

また、最近の業務変革はデジタル活用が前提になることが多いですが、それはあくまでも手段であって目的を忘れないことも重要だと思います。

現場でのより具体的な業務変革についても考えてみます。目標を見失わずにメンバーをリードし、スキル面や課題解決を支援する中堅リーダーの存在が大きなポイントになります。

ここは人の強みが生きるところです。「事件は現場で起きている」という名言がありますが、状況を把握して理想と現状とのギャップを埋め、思いと実務をつなげるチーム力、コミュニケーション力が重要になります。新しいやり方に変える上でも、従来のやり方を知っていて経験もある中堅メンバーの現場力が大いに発揮されるのです。

デジタルの知識がないからついていけないと不安がるより、現場で何が起きているのか、それらをより良くするために各業務についてやめることと続けることを整理し、変革の推進を目指してほしいと期待しています。

取り組みの過程で「変えていきたい」という思いを共有できたチームは強いと思います。変化に追われている感覚を捨てて、変化にチャレンジする感覚を養ってほしいと顧っています。

私たちリーダーには社会と会社、会社と個人のつながりの意昧や会社の使命、取り組みの意義をメンバーと共有することが求められています。そして、変革していくチームの目指す先や業務の目的、一つひとつがゴールするまでのプロセスをできるだけ「見える化」することが欠かせません。

それにより、組織の「縦・横・斜め」でコミュニケーションが図られ、メンバーが仕事を面白く感じ、逹成感と次のステップヘの意欲にもつながるのだと思います。

子年にあたり、どうすれば社会に良いものを提供し続けられるのかという観点で改革を進めていく思いを新たにしています。そしてそれは人ならではの力を付ける、生かしていくことでもあり、そんな人材 育成を目指したいと思っています。