(18) 先輩の本気に学んだこと

コラム「女性管理職が語る」

(2021年9月 日経産業新聞コラム欄「女性管理職が語る」への寄稿)

東京2020オリンピック、パラリンピック競技大会では日ごろ接することのない競技やアスリートの奮戦に触れ、多くの感動をいただきました。大きなイベントだけでなく、私たちには日々出会いがあり思いがけない影響を受けています。ただ、同じ出会いでも感動や刺激の受け方は人それぞれ違うものです。

例えば、先輩を見て自分のロールモデルと感じ刺激を受けるかどうかについてです。「ロールモデルがいない」という声を聞くことがあります。確かに自分にぴったりの働き方や考え方、ライフスタイルの人と出会うことは少なく、出会ったとしても全てをまねするのは難しいことです。

最近 、「吉田さんにはロールモデルがいましたか」と聞かれた時に、思い出した先輩の姿があります。仕事の内容もキャリアもライフスタイルも全く違うのですが、大きく影響を受けた人で心に強く残っています。

当時、私は30代半ばで事務システムの開発に関わり、事務対応の研修テキストを作成していました。作業に追われる中、研修担当の女性リーダーから毎日のように追いかけられ内容について納得がいくまで質問や指摘を受ける状況が続き、なんと厳しい人なのかと、うんざりしていました。

でも、その指摘ははっとさせられることばかりでした。そして、それらは全て受講する社員が理解しやすいか、実務につながっているかという観点であることに気づきました。個人的なこだわりではなく、研修の目的が何かというポイントを外すことがなかったのです。

そのすごさは何なのかと考え、それは仕事への本気度だということに思い至りました。これくらいならよいかという妥協がないのです。「ここはもう少し変えられるわよね」と言われると、その気迫につい「はい、できます、頑張ります」と言ってしまうのでした。

当初は「怖い、厳しい人」でしたが、いつの間にか「カッコよい目指すべき先輩」となり、その仕事が終わった時には爽快感さえありました。「ロールモデルとは、自分の行動や考え方などキャリア形成の上でお手本になる人物のこと」という定義に重ねると、彼女の仕事に向き合う姿勢は私にとってロールモデルの一つとなっていたのです。

若い皆さんには時には苦手な人とも会い、刺激を受けてほしいと思います。自分と違う人ほど新たな刺激を与えてくれます。映画やテレビ番組にも出会いがあり、考え方に共感することもあるでしょう。そう考えると、ロールモデルとの接点は近くにたくさんあるのではないでしょうか。

また、「本気」というキーワードで仕事がシンプルになります。「先輩に相談しにくい」「厳しいと思われたくないので後輩への指導を遠慮してしまう」という話も聞きますが、その仕事に本気になっている時は相談や指導もためらわずに行え、仕事の本質に迫ることができるものです。

怖がらず、出会いを大事に、本気で仕事と向き合うことがキャリアにつながります。そして私たちリーダーはロールモデルとなれるよう、それぞれの立場で仕事と向き合う姿勢を見せ、気になることは遠慮なく発信していきたいと思います。