(01)「数字は生きている」 仕事への姿勢変えた上司の一言

コラム「女性管理職が語る」

(2018年5月 日経産業新聞コラム欄「女性管理職が語る」への寄稿)

桜から新緑に、そして紫陽花の季節となります。新入社員も環境や仕事に少し慣れてくる頃でしょうか。社会に出て仕事をすることは簡単なことではないと感じることもあると思います。私の入社した頃を振り返ってみました。

当時は女性が企業で長く働き続けるというイメージはあまりありませんでした。「寿退社」「OL」という言葉があるほどで、キャリアビジョンとはほど遠かった気がします。私自身も「石の上にも3年」と目の前のことをこなすのに精一杯。いつか「吉田さんがいてくれて良かった」と言われるようになって辞めたいと思っていました。

少し仕事に慣れてきた頃、担当していた業務で営業成績の数字が大きく誤っていたことがありました。集計結果を見るなり上司が指摘。上司は叱らずに「数字は生きている。それぞれの数字には意味があり、何が起きているかが反映されている。それが何かを把握するのが吉田さんの仕事なんだよ」と言われました。

それまでは集計業務そのものが仕事であり、マニュアル通りに正確に速く行うことが自分の役割だと思っていましたが、「何のための業務か」を考えていなかったことに気づきました。自分にそこまでの仕事を期待されているのかという驚きもあり、仕事との向き合い方が変わりました。

それぞれの仕事に意味があり、前後のつながりもあります。意味を考えながら業務に向き合っていると、それがどこにつながっていくかを知ることができます。次にはその結果にこだわる、つまり少しでも良いものにする、相手の役に立つということを意識するようになります。

その後、色々な部署に異動しました。いつも不安や戸惑いが付きものでしたが、初めはわからなくて当たり前で「石の上にも3年」(まずは頑張ってみよう!)、そして「数字は生きている」(1つ1つ仕事の意味を考えよう)と考え、何とかキャッチアップしてきたように思います。

ある時、仕事で大きなミスをして多くの人に助けてもらったことがあります。周囲は「チームだから当たり前」と対応してくれましたが、仕事は人でできている、人と人でできるチーム力は大きな力だと実感しました。

若い皆さんは、日々の業務や経験が将来の自分を育てていることを覚えておいてください。思う通りにいかないことや失敗も素直に受け止めて考えると次のステップが開けていきます。過ぎてみればピンチはチャンスだったと思えます。1つ1つのことから逃げずに好奇心を持って取り組んでほしいと思います。

「数字は生きている」は未熟な私に上司が伝えてくれた金言です。その後の私の人生への影響は大きく、役員になった今も「伝えるべきことはその場でしっかり伝える」ということの大切さを感じ、実践しています。

辛い局面があったからこそ知ったチーム力ですが、それも当時の上司が醸成していったものだと思うようになりました。人工知能(AI)などのテクノロジーの進展や、技術革新など変化の激しい時代ですが、だからこそ仕事を通して人としての力や思いを大切にしたいと感じています。