(03) やってみるしかない 一歩踏み出せばキャリアは開ける

コラム「女性管理職が語る」

(2018年10月 日経産業新聞コラム欄「女性管理職が語る」への寄稿)

キャリアビジョンが大事とよく言われますが、女性の皆さんからは「どう描くのかわからない」という声も聞きます。自分はどうだったのかを振り返ってみました。

20代の私は「将来なりたい姿」もなく「少しでも役に立つ仕事をしたい」という思いだけでした。そんなとき、女性の社会保険労務士の方と仕事をさせていただいたことがあります。りんとした仕事ぶりに憧れ、社労士の講座を受けてみました。

資格を取るには至りませんでしたが、その内容が当時の自分の仕事に役立つことに気づき、働くのが楽しくなりました。人との出会いと、ちょっとした好奇心で世界が少し広がった出来事です。

想定外の人事異動を多く経験し、そのたびに自分にはできないのではないかと不安を感じましたが、次第に「まずはやってみるしかない」と考えるようになりました。3カ月、半年とたつうちに前向きに仕事をする自分に気づき、驚くことがあります。全く違う仕事でも、それまでの経験が役立つ瞬間が必ずあり、点から線に、線から面に、時に立体にとつながり、変化していきます。

失敗も多く、上司、先輩にはよく怒られました。「泣かないように」と前置きされることもあり、先に言われると我慢できるのも不思議です。泣かない方が上司はしっかりとしたアドバイスができるのだと思います。誤りを指摘され、自分の考えと大きく違ったりすると、当初は落ち込むのですが、言われたことを反すうしているうちに「そういうやり方、考え方もあるのか、試してみようか」と、新たな道が開けてきます。

トラブルやピンチの時ほど「主観、客観、事実」の3つの視点を持つことが大事と言われます。指摘されたと気にするのではなく、内容を見つめ直すと、無用に落ち込まず、次にやるべきことが見えてきます。

数年前、米スタンフォード大学のクランボルツ教授が提唱した「計画的偶発性理論」の話を聞きました。「キャリアの8割は偶然で決まる。ただし、偶然はただ待っているだけではなく、自らの行動や意識の持ち方が重要」というものです。その行動や意識とは「好奇心、持続性、楽観性、柔軟性、冒険心」です。

「数年後の自分のありたい姿」を描き「何をすればそこにたどり着けるか」を考えることは大切です。今の自分とのギャップやそこに向かう過程で起こる想定外の出来事に悩むこともあるでしょう。その時々で、この「好奇心、持続性、楽観性、柔軟性、冒険心」は自分で自分の背を押すヒントになります。

色々な未来や可能性があるのを忘れないでほしいと思います。チャレンジには不安がつきものですが、「石橋をたたき過ぎて壊さない、まずはやってみよう」と一歩踏み出してください。周囲の多くの人たちが必ず応援してくれます。

様々な人との出会いとその時々の気づきのおかげで今の私があります。その恩返しとしても、みんなの背中を少しでも押し、一人ひとりの成長を促すこと。そしてそれぞれの強みを生かし合い、1+1が2ではなく、3にも4にもなっていく、強く優しいチームをつくりたいと思っています。